桑原研究室
固体NMRの新たな手法の開発を行い,作り上げた手法を用いて,水素結合型誘電体,イオン液体,メタンハイドレートなどを測定しています.
核磁気共鳴法(NMR)は,有機構造化学,生物化学,材料化学等の研究分野において非常にポピュラーな測定手法である.これれらの分野の研究において,溶液のNMRが使用されない日はないと言ってよい.これに対して固体NMRは それほど研究者に浸透していない.固体NMR測定が(素人には)難しいのが,その主な理由であろう.溶液のNMRは強力な構造解析の手段ではあるが 当然欠点もある.その一つは,測定を行うために試料を溶媒に溶かさなければならないことである.固体状態において興味ある物性を示す物質は,溶媒に溶かした瞬間からその物性を失ってしまう.よって そのような物質の本質を探るには,固体状態でNMRを測定することが必要となる.
“言うは易しく,行うは難し”とは,固体NMRのためにある言葉のように思える.というのは 固体試料をただ単に溶液NMRと同様に測定すれば,スペクトル全体としては「もや」のようなものしか見えないからである.固体の中では 原子核を取り巻く様々な相互作用によって,各原子核の共鳴線が厚いベールに覆われている.このベールを取り去ると,そこには,素晴らしい分解能を持った“木立の様な”共鳴線たちが現れる.これを史上初めて実現したのが,マジック角試料回転(MAS)であった.このような“新たな手法”を開発したいと願い,まだまだ存在する原子核周りの厚いベールをはがそうと日々奮闘しているのが,我が研究室である.具体的には,禁制遷移の制約をすっ飛ばして観測するovertone NMR,試料に超音波振動を与えて分解能向上を目指すUltrasonic NMRなど,他の研究室には見られない変わった研究を行っている.
試料静止状態
試料回転周波数
5kHz
固体状態のパラジメトキシベンゼンを静止状態で測定した
NMRスペクトルと,MAS法(回転周波数5kHz)で測定した
NMRスペクトルの比較